「機械病棟」

うめき声、横の奴がうなってる。
俺はというと、動かさない限り、痛みはやってこない。
ただ、足首をひねろうとすると、脂汗が額を滴り落ちる。

「いやだぁ、あそこだけは・・・」
そんな声が遠くから聞こえるがそんなの気にしていたら何もできない。
なにしろ、このグシャっとコンパクトに縮こまった路線バスから
一番近い救急病院はあそこしかないんだし、
今時、生身の看護婦なんて居るところは特別料金を払った
元議員のじいさん御用達な、とこしかない。
100人に1人が医師な時代、それなのに
3Kの代名詞、看護婦なんてなる奴なんてもういない。
「人に尽くすのがいきがいです」っていうような女は
前世紀で、滅んだようだ。


あれほど、嫌がってた奴ほど早く、出て行けるってのは
不条理だね。それも、毛嫌いしていた看護ロボの
適切な処置のおかけで。
かく言う俺は、歩けないんじゃしょうがない。
骨が固まるまで久々のオフを満喫できるってものだ。
どうせ、俺がいなくても、会社はまわるし、
会えば文句たれる、家族にもあわなくてすむ。
それに、「あれがロボットだ」って思わなければ
十分可愛く、こまめに気を付けてくれる看護婦さんもいることだし。


ここの生活は退屈だ。でも、何でもしてくれる。
俺の思ったことは。
そう、何の苦労もいとわない、
それが彼女達の役目だし、それが介護する、されるってことらしい。
そういや、これほど、俺のこと、構ってもらえたことが
最近あっただろうか?
時間と義務に囲まれて、俺の権利は行使出来ず。
あまった有給、ただ寝てるだけ。
だれが相手してくれるでなし、
・・・・
そう、居心地いいこのベットでなら当分休んでいられるかな。









「ねぇ、・・・・・・どう?」
耳打ちした、その先の顔がわずかに赤らむ。
「えっ・・・、・・・・・もぅ、婦長さんにはナイショですよ」
そう、ここには天使がいる。
いつしか、呼ばなくても、
だいたいキモチを察してやってくる。
こんなにイイトコ、俺が居ていいのか?と、良心と不安が頭を
よぎるけど、柔らかいふっとした彼女の指先が俺の
胸をなぜるたびに、薄く剥ぎ取られていくようだ。
・・・
そう、これは、神様のくれた休養なんだ。
こういう機会はめったにないから、「ぞんぶん」に楽しまなくっちゃ。
「ちょっと、薄めですね。クスッ」



























「ねぇ、今日、何曜日?」
「そんなこと、いいんじゃないんですか」
「・・・そうだなぁ」
あたたかい、かぜ。ふわふわのソファ。
いいや、また寝よう。きもちいから。




















「あっ、局長さん、あのサンプルの人の承諾書類もらってきましたよ」
「・・・よし、よくやった。じゃあ、予定どうりラボに5時間後に直行だ」
「はーい」



人はそこを「奇怪病棟」と陰口をたたく。