「えー、昨年は、極大の年だったのにも関わらず、  世間一般や、マスコミの方々の影響により、  まったくデータとして活かせない観測では  ありましたが、本年は、外的要因も無く、  また、今のところ天候にも恵まれているので、  よい、結果を得られることを期待します。」 いつになく、まじめな顧問の声が、この山間のちょっとした空間に広がる。 「3年生は今までの集大成と、後輩の見本になるように、  2年生は昨年の失敗にめげず、  1年生は、初めてなので、緊張せず、  観測に取りかかってください。  と、まぁ、固いことはここまでで、  注意することといえば、  ・・・うーん、『寝るな!』  以上。」 ここで、後ろからはクスクスと押し殺したものが。 言いたいことはよーく、わかる。 アイツは、この前、 あまりにもぐっすりしてたんで、 イカる気も失せたOBの方々によって、 推定26度もある火山灰質の斜面を けっぽられて、下っていってしまったんだ。 「うへぇ〜」なんて情けない声を出しながら。 なんで、あんな奴と一緒にここまで、こんな山奥まで いなくちゃいけないんだか。 「では、ラムカ班は所定の位置について、  写真班はレンズのカバーを外して、  短波班は時報の代わりに合図をしてください。  毎時55分に小中止とします。」 雲量2の南天。 はじめて見るそれではないけれど、 かといって、新鮮でないかというそうでもない。 なぜか宇宙に漂っていて、地球になぜか遭遇出来たのに 着替える間もなく海面に触れることさえ出来ずに ふっと消えて蒸発してしまう、それが流星ってものらしい。 考えてみたら可哀想なものだ。 そして、星屑の団体さんに毎年決まって地球が突っ込んでいく、 彼らの集団がやってくる方向、彼らが消えていってしまう時期。 それを名前にしたのが流星群だしこの時期だし。 あと一分です、の合図とともに、 一斉に赤いランプが消されて、 ようやく慣れ始めた、周りの風景に さらに蒼のスライドを被せる。 けど。 あのくすんだ夜空にほんの少しだけ、 残してくれた楕円の空間。 そこには、さっきと同じように 白い筋が降りてきてる。 青のグランドシートに包まっていても なんか今日は眠れない。 そんなに寒くないのに、湿ってないのに、 なんで、どうして、判らないの。 ちょっと寝返りうって横見た時、 あいつが見えたら、なにか、わかった気がした。 「ねぇ、いい?」 「ああ」 愛想無くぼそっと。 二人して目的のない寂しい北天を見上げてた。 「散々だったね、今日」 「雨男、多いから、ここ」 「そうね」 当たりさわりの無い会話に努めてても、 喉のどっかに余計な力が。 そう、そうよ、普通に、普通に、 いつのもように、たわいも無く、 空気のように、自然に、 明るく、愛想よく。 だけど、そんな努力をいっぺんに無為にしてしまう あいつの口先。その動き。 「これぐらいの方がいいと思うな」 「ぅへっ」 ぐー、変にうわずっちゃったんじゃない。 なにがいいの?これぐらいって? 「流れ星って、さぁ、あんまり見えないから  願い事をかなえるんだと思うんだ。  だから、これぐらいのほうが、  きっと」 「あ、なにか、願い事でも?」 とっさに出た言葉は全然気が効いてなかった。 乙女として失格ね。 修行が足りないみたい。 こんなことなら、始めの一歩を踏み出す10か条でも もっと、読んでくればよかったわ。 「でも、かなった気がするかも」 ようやく落ちついて、その言葉の意味を すこしは理解できた頃には、もう私の目は半分ほど チカラを失っていた。 それって・・・・ って、思いつつ、思考が途切れる。 ほんの少し前に放てたコトバが。 「もう少しこうしててもいいかなぁ?」 肩から彼の暖かさを感じる。 今までにない、緊張と疲れと、安堵と至福とで 中枢神経はノックダウン寸前。 このえいえんに続かない世界の 最後に聞いたコトバが 「いいよ、いつまでも」 だった。 と、 「突撃企画!朝のお目覚めはいかがぁ?」 双子の姉の方がそう呼びかける。 薄目を開けると、役に立たなかった短波のマイクを 口元に向けられて。 「あー、気分はいかがですか。あー」 下手な担任の物まねで一部の外野はそれだけで、爆笑。 じーっと、周りに見つめられる。 うっ、謀られたか。 こう言うときは朝一で起きて仕掛ける方に回るのが得策 だったかな、と邪推していると、どうも、微妙に 視線がずれている。 対称軸よりこっちが、左側で・・・ ええっ、? 「ねぇえ、う、で、は?」 マイクを持ってない妹の方も、意地悪そうに 聞いて来る。 ワタシの左手が、なにかに触れている。 暖かくて、それでいて少々固くて まるで人のような・・・・・・ 「・・・あっ。」 とたんに引き離し、けど、 顔中になにかが上昇し、それとともに、 また違うなにかが、体中をかけ回る。 そんなことをば、露知らずの顔で 「お、はよう」なんて、とぼけた声で 起き出すもんだから、 手前のシュラフで、アイツ目掛けて。 「カトーのばかぁぁあ!」 反動のついた凶器は彼に対して鉛直の方向で ジャストミートし、あごを取られ、安定感を 失った巨体は当然よろけ、そして 定番のごとく、さえぎるものの無い 斜面を転げ落ちた。 ほら、もうあんなに小さくなって。 「そして、伝説になるんですね」 もっともらしいこと言わなーい、の。後輩。 ―おしまいのはじまり―